悪意を投げつけられる

今住んでいる家はどちらかというと山際にある。
市内を通るバスは大体230円で均一だが、
最寄りの停留所の次の停留所からは均一区間外となり、バスは山を越えていく。
1人でお茶でも飲もうと、電車に乗って市内の中心部へ向かう。
平日の昼間だから、だいたいどこの店に入っても座りたいところに座れるだろう。
そんなことを思いながら、街を歩く。
 
すれちがう人に彼の悪意と欲動を生のまま投げつけられることが稀にある。
すれ違いざまに一言、といったように。
それに付け加えるようにわざわざ私を追いかけてさらに一言、といったように。
時間にすると5秒ほど。
 
私にはほんの一瞬だけ動揺が走り、すぐさま大切な何かを護るように怒りが武装蜂起した。
普段は眠っている私の攻撃欲が全力で悲鳴をあげながら、
思いつく限りの罵声を彼らの顔に、胴体に、手に、足に、投げつけた。
けれどもそれは私の心から出ることはなく、音にはならない。
それなのにそれなのにこんなに動悸が激しい。
 
彼らは5人とも全員男であった。
そしてみな、私の身体について、下卑た欲動を投げつけてきた。
そしてみな、どこかそう言われることを喜べと強制する卑しさもあった。
そしてみな、自分が投げつけるそれは暴力でも悪意でも無いとでもいうかのような無知さがあった。
私は物として扱われたのだ。
そのことに気づいた。悔しくて悔しくて、帰り道は震えて泣きながら帰った。