読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

夢の残滓

 

下書きに保存しておいた一番上の記事をクリックする。画面に現れた全文を選択して、デリートする。

自分が書いたものとは思えなかったから。

自分から自分じゃないようなものを出しかけた時、私の感覚は苦手と嫌が重なりながら私に主張してくれる。言葉も、眼差しも、吐息すら。もちろん体調と気分によって気まぐれに重ならない時もある。

公開される文と、下書きのままデリートされる文とには、何か大きな隔たりがある。

一度下書きにしたものを、未来の自分が公開する確率はさほど高くないことをしっていながら、デリートすることを先延ばしにしたくてただ下書きというカテゴリーに放り込んでやる。公開する時は、蛇口をひねるように、手に取った花びらを川に流すように、もう戻らないことを愛するようにボタンを押す。

 

昨日今日は、見た夢の残滓が一段とこびりついている。頭に。目の裏に。肘に。

中学時代の塾の先生、高校時代の担任ではない英語の先生、1年前まで働いていた会社の上司

彼らは私が睡眠から出かけか入りかけの時に現れては消え、複雑な感情を私に残していく。それぞれに出会った時分はどれも違うが、私は「ある期間、相手にとっても自分にとっても親密な時間を過ごした年上の男の人」に対してある特定の感情を持つことが、一番新しい3人目に出会いそしてその元を去ってから少し経った時に、分かった。これは、私の人生における大いなるパターンである。

私はそのパターンを楽しみながら、同時に脱出するためにあがいている。

いまはその小休憩なり。

 

世界からの隠れ方

それをすることが嫌で嫌で、この世からそういう機会が全て無くなればいいのにと思う。世から無くなることが難しくても、せめて私のもとには訪れることなく、あっちも私を無視してくれればいい。私以外のところへ行けば、その方が何かと上手く回る。

私の場合、物事を進めるには人とやりとりすることが不可欠で。

大方の人がそれに当てはまるものだとは思うのだが、私の場合と書いたのはやはり私がそうしなくても済むようになることを望んでいることの現れだ。

私は知っていることを書くのではない。書いたことが私に知らせる。

 

メッセンジャーやslackやchatworkと呼ばれるアプリをちらりとでも見てしまうと、

私とこの閉じた世界をまもっている(だがまもり切るには貧弱な)堤防が決壊する音を今までも何度も聞いている。

普段私はそれらについては、パソコンではなくてiPadで見ることにしている。3年ほど前にiPadを買った日に、だがiPadを買った大型家電量販店とは違う店で買った、オレンジ色のカバーがつけてある。1年半前の旅行先で、青空に興奮して走り回り自分の足にカンっと躓いてこけた時に、このオレンジpadも共にこけた。私たちは砂利道に盛大に倒れた。私のお気に入りのブルーのスカンツは破れ、オレンジpadは角が欠けた。

そんなiPadを開いたとき私も開かざるを得ない。

普段それらの通知機能はonにされている。私が通常で元気だったときに設定したのだが、教えてほしければこちらから見ることができるのに、なぜ画面に勝手にうつり込むのだと今では理不尽な怒りを機械に対して覚える。だが今はどんなメッセージも見たくない。催促も心配もいらない。私をひとりにしてくれ

あらゆる人との回線を介しての連絡が途絶えても私が死んだわけではない。私の体はちゃんと物体としてある。ネットからその痕跡が薄れつつあっても、私のスレッドがどんどん下がって目につく回数が減ったとしても、私の体はちゃんとあるのだから。

iPadは5日前の就寝時に電池が切れてから充電されていない。

今回は今までの何倍も世界をかたく閉ざしている。

閉じる女の話

 

あのね、と言われる。

引きこもりの当事者集会をしてる人にこの間教えてもらったんだけど、引きこもりって、部屋から出ない人だけを指すんじゃないんだって。

外に出ることが出来ても、たぶん、まぁ、普通の人なら持っている友達とか会社とかコミュニティとかとのつながりがない人もいうんだって。

ふぅん。じゃあこうしてあなたと道を歩いている私も、実は立派な引きこもりというわけだ。

相手は少し困ったように笑いかけた後に、何も言わずに前を向いた。

 

ある1日目

 

住んでる部屋の北に面した薄汚れた壁にもたれかかる。

4月も既に5日目なので、電源を切ったままにしている炬燵に足を突っ込んで、

FとHに挟まれたように位置するGが抜け落ちている私のキーボードを叩く。

ある1日目。

一昨日近所のTSUTAYAから借りてきた「 鑑定士と顔のない依頼人 」のストーリーが勝手に進んでいく。時たま画面に目が行き、手は止まる。

デジタル時計は12時13分を表示している。

床にはノートが3冊散らばっている。

炬燵の上には手作りの湯のみが2つ置いてあるが、中身は梅昆布茶とほうじ茶で、一緒ではない。

さっきから右の方で高くも低くもないウゥーンという音がなり続けている。これはなんの音だろう。

ずっともたれかかっていると右の肩甲骨と左の腰の辺りが痛くなる。